聞くチャンネル インタビュー

女性技術者が活躍できる建設業の架け橋に

渡富建設株式会社 代表取締役 渡部智子さん

1976年9月生まれ、郡山市湖南町出身。桜美林大学国際学部国際学科卒。大学ではサイクリング部に所属し全国を自転車で旅行した。1999年4月に家業の渡富建設に入社し建設事務を担当。1級土木施工管理技士、2級建築施工管理技士、2級管工事施工管理技士、2級造園施工管理技士、給水装置工事主任技術者、2級建設業経理事務士とさまざま資格を取得し、現在は社長を務める。家族構成は夫、息子2人。

― 建設業界に関わりをもたれたきっかけは何ですか

曽祖父、祖父、父と代々建設業を営み、私で4代目となります。子供のころは、事務所と自宅がドア1枚でつながっていたため、建設業は生まれた時から身近な生活の風景の一部でした。朝の出社時、社員さんたちの賑やかな声や車が出入りする音などの活気ある空気、事務所で机に向かう監督さんらの充実した様子など、同じ屋根の下で、モノをつくる人たちの「エネルギー」や「勢い」をいつも感じていました。これが私にとっての建設業のイメージです。
仕事の内容はよく分かりませんでしたが、事務所のソファをトランポリン代わりに遊んで怒られたり、無線でしゃべってみたり、社員のおじさんとおはじきをしたり、休憩時のお茶を出す手伝いや、たくさんあった色鉛筆を借りて図面の着色(当時は塗り絵だと思っていた)の手伝いをしたなど、楽しい思い出ばかりです。私は三姉妹の長女で、妹とケンカをしていると、母が仕切りのドアを開け「みんなに見てもらいなさい」と怒られ、ケンカが収まったことを覚えています。
私は「家業を継がなければいけないのかな」と思いながら育ちました。「継ぐ」ということは、男性だったら社長になるということでしょうが、女性である私にはその感覚はなく、母がそうであったように、事務や地域の付き合いなどにより会社を支えるというイメージでした。私が社長を務めることとなりましたが、自分が生まれ育った場所を「守り継ぐ」という点では一緒ですから、抵抗感はありませんでした。

― 一日のスケジュールを教えてください

午前6時半に出社して机を拭いたり、植物に水をやったり社内を整えて、社員さんたちを迎えます。なるべく一言二言ことばを交わすように心掛けていますが、コミュニケーションをとることでその日の様子やいつもとの違いを感じることができます。これは父も行っていたことで、大切なことだと思っています。
その後、書類作成等のためパソコン作業を行うことが多く、来客の対応や建設業界団体の会合などもあります。令和5年6月に福島県建設業協会青年部の副会長になり、県外に出張することも増えました。全国の若手経営層の方と話をすると、同じ問題に対しても地域や会社によって解決の方法は様々だとわかり勉強になります。これは、自分の地域の「当たり前」を見直す機会になっています。

★建設業の面白さ 現場で経験と知恵を生かす

― どんなときに仕事にやりがいを感じますか

工事現場に行くときは皆と話します。工事の内容で分からないことはベテラン社員さんに教えてもらいます。私も資格取得の勉強をしましたが、現場では教科書には載っていないような経験と知恵も必要で、皆さん工夫して対応しています。兼業農家の方や他業種経験のある方も多く働いており、社員全員の経験のすべてが無駄なく現場に生かされているのが、建設業の面白さだと思います。さまざまな人が集まることでそれぞれの強みが生かされ、会社の組織が強くなるのでしょうね。
社長として発注者の検査に立ち会うと、女性ということで珍しがられることも多くありました。以前、竣工検査で大型の雨水管の中に入った時には「女の人は昔、トンネルや下水道の掘削現場には迷信があって入れなかったんだよ」「女性の検査員が現場に入ることを本気で怒る親方も以前はいたよ」などとも聞きましたので、時代は変わりましたね。

― 会社で女性活躍を推進している取り組みがあれば教えてください

女性が活躍するためには、意識の変化が大切だと思っています。奥様が出産予定の社員には「男性育休」を取るよう勧めています。長い人で2週間程度ですが、今までに3人が取得しました。社内でも男性が育児休業をとることが浸透し「いいことだね」「がんばってね」と送り出します。ただの休暇のように過ごす「取るだけ育休」にならないようにね、と念を押しますが、皆さん奥さんと一緒に育児をし、時には奥さんの自由時間を作ってあげたりと有意義な時間にしているようです。
また、以前は病気や介護などの事情で会社を辞めるケースがありましたが、今は制度が整い様々な事情を抱えながらも働き続けられる時代になりました。会社でも協力して少しでも働きやすい社会になればと考えています。

― 女性が活躍できる環境づくりについてどのように考えていますか

私が入社した20年前の建設業では、軽作業員という立場で女性も多く現場で働いていました。私の母は事務の手伝いをしていましたし、現在でも社長の奥様や娘さんが事務を取り仕切っているのをよく見かけます。そんな風に建設業の仕事をサポートし活躍する女性を何人も見ていたので「建設業は男ばかりで大変だね」とかけられる言葉には、正直ピンときていませんでした。
ところが、社長となり業界の会合に出ると、役職を持ち、公の場に出てくるのは男性だけという現実を目の当たりにしました。青年部の全国会議に参加したときもほぼ男性しかおらず、他業種でもそうかもしれませんが、建設業は特に女性の経営者や管理職が少ないということを実感しました。
経営層が男性ばかりでは、女性技術者に対する理解も十分とはいえず、建設業を目指す女性が増えづらい要因の一つになっているかもしれません。私が懸け橋になれるかもしれないと思っています。
女性の技術者もまだ多くはありません。弊社の技術者にも女性がいませんが、建設業協会の女性部会「ふくしま建女会」に参加し、女性の技術者さんたちと話をしてとても勉強になりました。皆さん当然男性と同じく監督業をされて夜間工事もこなしています。建設業界の近くで育った私ですら「技術職は男性にしかできないのでは」という無意識の偏見がありました。けれど実際に活躍している女性を目にすることで誤った知識を変えることができました。私が出会った皆さんは意欲が高い方ばかりでしたし、会社側も性別に関係なく社員を活躍させる場をつくっていました。ただ、やはり女性であることで抱える苦労や悩みもあり、改善の余地があることも分かりました。

★女性、経営者、若手の視点で建設業に貢献

― 建設業の後継者問題について伺います

私は幸い「女性」「社長」「青年部」のそれぞれの視点から建設業に関わらせていただいたため、社長や若手経営層、建設業で働く女性と交流できました。皆さんそれぞれの持ち場で真剣に働いているし、将来の建設業について考えていらっしゃいます。私も建設業が維持できること、女性も含めたすべての人が働きやすくなること、社会への建設業理解に種をまくことなどを、私なりの立場でお手伝いできたらと思っています。
私が女性の技術者を見て意識が変わったように、建設業で働く私を見た人の意識がほんの少しでも変わればよいと思っています。息子が2人いますが、大学2年の長男は工学部でコンピューターを学んでおり、高校3年の次男は進路に土木を希望しており、うれしく思っています。

― 休日はどのように過ごしていますか

休日はメンテナンスの日です。子供の手が離れたので、朝にひとりの時間をつくります。家も町も店も静かでいいですね。散歩してカフェに行って思うことをノートに書き出すと、気持ちが整います。その後で家事や庭の草むしり、買い物などをします。社長になり体力不足を感じたので健康にも気を付けるようになりました。週1回通うジムでの筋トレのおかげで、体も思考力も持続力がつきました。以前は日曜日はぐったりしていましたが、今では一日中好きなことをして動いています。疲れていても仕事で急な判断をしなければならない時もあり、もうひと踏ん張りする力を得るため、経営層の方にこそ筋トレはお勧めです。
また会社でも「健康経営」に取り組んでいて、健康診断の再検査の徹底や外部から講師を招いてストレッチの講習をするなど、社員の健康づくりに力を入れています。

★従来の価値観にとらわれず、物事を「フラットに見る」

― 好きな言葉を教えてください

大学時代に学んだ、物事を「フラットに見る」です。先入観を除いて、客観的に見ることで、従来の価値観を外し、新しい視点が見えてきます。
女性だから、何々だからできないと考えず、地域を良くすること、会社経営に役立つこと、業界を良くするために大切なことはないかとさまざま視点から考える。思い込みの強い性格で何度も失敗してきたので、自戒を込めて心掛けています。

― 今後の目標は何ですか

社長となってまだ3年数カ月です。周囲の方々に学びながら、まずは社長業をしっかり行いたいです。社員と会社、地域の安全・安心を守り、地域から必要とされる会社にしたい。色々な場面で女性一人で戸惑うこともありますが、違う視点だからこそ気付けることもあります。自分を育ててくれた建設業界に貢献できればうれしいです。

福島県建設業協会のinstagram

見学会の様子や、建設現場の今をインスタグラムで配信しています。

Follow Me